12 行列式3
○ はじめに
この節では,余因子というスカラーを定義し,行列式を計算するための余因子展開について述べる.次に,余因子を要素とする余因子行列を定義し,逆行列との関連を述べる.○ 前節5.2で述べた行列式の値を次数を下げて計算する方法は,次のようになっていた. または この (1,1)成分と残りn−1 次の行列式という組合せで次数を下げる方法は,行の入れ替えを用いると次のように拡張できる. (2,1)成分のみ0でなく,他の1列目の成分が0であるとき, 1行と2行を入れ替え
次数が下がる
一般に,(i,1)成分のみ0でなく,他の1列目の成分が0であるとき,直接i行と1行を入れ替えると,1回で入れ替えできるが,行列成分の並び方が変わって定式化しにくい.これに対して,i行を順次上の行と入れ替えていくと,i−1回の入れ替えで,1行目に来るようにできる. 1つ上の行と入れ換える
順次上の行と入れ替える[i−1回]
列の入れ替えについても1回の入れ替えで符号が1回変わるから,(i,j)成分のみ0でなく,他のj列目の成分が0であるとき,同様にして,まず第j列を第1列まで順次入れ替えてから,次に第i行を順次第1行まで入れ替えればよい
1つ左の列と入れ換える
順次左の列と入れ替える[ j−1 回]
順次上の行と入れ替える[ i−1 回]
次数が下がる
行についても同様だから,n−1次の正方行列でaijを除くi行またはj列の他の成分がすべて0のとき,i行とj列を除いたn−1次の行列式で表わすことができる.
または
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○ 余因子の定義
n次正方行列の第i行と第j列を取り除いて得られるn−1次の正方行列の行列式に(−1)i+jを掛けた(※波線は取り除く部分)
を(i, j)余因子という. 例1 とするとき, (※余因子は行列式なので,スカラー(単なる数)となる.) 余因子Aijを用いると,上に述べた行列式の次数を下げる変形は次の形で表わされる.
または
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○ 余因子展開
正方行列Aの第j列を と分けて,行列式の線形性を用いると
となる.これを行列式|A|の第j列に関する余因子展開という. 同様にして,行列式|A|の第i行に関する余因子展開 が得られる. 例2 を第2列で展開すると, 例3 を第1行で展開すると, |
○ 余因子行列 n次正方行列に対し (※余因子はスカラー(単なる数)であるので,余因子行列は成分を余因子に置き換え,さらに転置した行列であることが重要) 例4 とすると であるから 例5 とすると … … であるから |
○ 余因子行列と逆行列は,次の関係を満たす.
ならば
証明のとき,クラメルの公式を用いてを求めてみる. とおくと となればよい. だから となればよい. の第i成分は,
であるが,この式の分子 ↓i列
すなわち, が成り立つ. |
○ また,これより次の定理が得られる.
定理7
証明 ア) のとき,上に述べたことから,から 分母を払えば も同様にして示される. イ) のとき, の(i, j)成分がであることに注意すると,の(i, j)成分は となるが, (1) i=jのとき, この式は,行列式の第i行に関する余因子展開と等しく, (2) i≠jのとき, Aの第j行を第i行で置き換えた行列の行列式
ところが,この行列式は第i行と第j行が等しいから前節で述べた定理5により,0となる. 例6 の余因子行列と逆行列を求めよ. (解答) だから |
■確認テスト■ (半角数字で答えよ) |