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9 正則行列と逆行列
 実数aについては,a0のとき,その逆数a−1が存在して,a·a−1=1が成り立つ.この節では,これと同様に,行列について,−1=E( 単位行列 ) となる逆行列A−1が存在するための条件やその求め方を調べる.
○ n次正方行列について
==
を満たす行列逆行列(inverse matrix) といいA−1で表わす.すべての行列が逆行列をもつわけではない.逆行列をもつ行列は正則(regular)であるという.
    ※ 上の定義により,逆行列が存在すれば,==が成り立つ.
    ※ また,=が成り立てば,=も成り立つことが知られており,=ならば,=としてよい.
正則行列の逆行列はただ1つである.
      (証明)
      行列の逆行列であると仮定すると,
      (= )= … (*1)
      =()= … (*2)
      (*1) 式の各辺に右からを掛けると,
      =
      (*2) 式により=だから
      =
基本行列は正則である.
    (証明)
    (c0) については,


    が成り立ち,逆行列

    が存在するから,Pは正則である.■
    100
    0100
    :
    1


    0
    :

    01
    0
    :

    10
    0
    0



    10
    001
    ← i行
    ← j行

    については  Qを左から掛けると,相手の行列の第i行と第j行が入れ替わるので,QQにより,Qの第i行と第j行が入れ替わりとなる.
     つまり,QQ=だから,Q−1=Qとなり,逆行列が存在する(Q自身)から,Qは正則である.■

    100
    010c0
    :
    1


    0
    :

    1

    0
    :


    1
    0
    0



    10
    001
    ←i行 ↑j列
    については,Rを左から掛けると,相手の行列のijc倍を加えるから,たとえば,
    1020
    0100
    0010
    0001
    10−20
    0100
    0010
    0001

    10−20
    0100
    0010
    0001
    1020
    0100
    0010
    0001

    のように第 (i,j) 成分の符号を逆にすれば逆行列となる.よって,Rは正則である.■

定理4 次の(i)〜(v)は,それぞれ,n次正方行列が正則であるための必要十分条件である.
    (i)  同次形連立1次方程式が自明解のみをもつ.
    (ii) 任意の列ベクトルに対して,がただ1つの解をもつ.
    (iii) の基本形はである.
    (iv) rank()=n
    (v)  ||≠0
      (証明)
       次の流れに沿って証明する.
      (i)⇔(iv)の証明:
      3.3節の定理3
         「同次方程式が自明解のみをもつ」ための必要十分条件は「rank()=n
      によって示されている. 

      (iv)⇔(iii)の証明:
      rank () =n,すなわちn次正方行列で異なる基本ベクトルがn個あること(既約な階段行列で先頭の1がn個あること)は,の基本形がであるということである.

      正則→(i)の証明:
      が正則ならば,その逆行列が存在するから,
      =  → =  → =
      となる.
      (正則→(ii)も同様にして示される。すなわち,=かつの存在 →==

      (i)→(ii)の証明:
      1=2=が成り立つとすれば,辺々引いて(12) =
      ここで (i) が成り立てば,12=  となるから,1=2が言える.すなわち (ii) が成立する.

      (ii)→(i)の証明:
      自明解=  は= の解だから,=がただ1つの解をもつならば,自明解のみが解となるのは明らかである.

      (ii)→正則の証明:
       基本ベクトルi( i = 1, 2, …, n ) に対して,=i の解をiとすると,
      1=i
      2=2

      n=n
      列ベクトルを束ねて書くと,[12n] = [12n] =
      ここで,= [12n] とおくと,
      = … (1)
       さらに,(ii)→(iii)だからの行基本変形によりが得られる.
      様々な種類の基本行列を変形の順に12,…,kで表わすと,
      k21=
      が成り立つから,=k21とおくと
      = … (2)
      (1)(2) より,==() = ()==
      よって,==となるから,は正則で,==となる.
n次正則行列, について,次が成り立つ.
    (1) の逆行列はただ1つである.
    (2) 逆行列も正則であり,()−1=
    (3) 転置行列tも正則であり,(t)−1=t(−1)
    (4) ()−1=−1−1
      証明
      (1) 2つ存在すると仮定して等しいことを示す.
      (2) 逆行列の定義に当てはめる :「 == を満たす行列の逆行列といいで表わす.」から,
      == によりの逆行列 ()−1が存在し, ()−1=
      (3) 2.2節において,転置行列について次の性質を示した:t(t) =t() =tt
      tt(−1) =t(−1) =t=
      t(−1)t=t(−1) =t=
      となるから,(t)−1=t(−1)
      (4) 
      ()(−1−1) =(−1)−1=()−1=−1=
      (−1−1)() =−1(−1)=−1()=−1=
      だから,()−1=−1−1

○ 逆行列の求め方
    定理4の (ii)→正則 の証明において,に行う行基本変形を順に12,…,kとするとき,
    k21=
    だから,
    k21=−1
    ここで,と並べてにも基本変形を行うことにすると
    k21[ ]
     
    [ k21]
    となって,まで変形したとき,k21すなわち−1に変形されている.

例1
の逆行列を求める.
2行+1行×(−2)

2行×(−1)

1行+2行×(−3)

ゆえに,

例2
の逆行列を求める.
1行と2行の入れ替え

3行+1行×(−2)

1行+2行×(−1), 3行+2行

1行+3行, 2行+3行×(−2)


ゆえに

■確認テスト■   次の空欄を埋めよ.
(1) 次の行列が正則行列かどうか判定せよ.
… [ 計算:見る|隠す]

  … 行列が 次正方行列で,その階数が だから, ( 正則である 正則でない ) 

(2) 次の行列が正則行列かどうか判定せよ.
 … [ 計算:見る|隠す]

  … 行列が 次正方行列で,その階数が だから, ( 正則である 正則でない ) 


(3) 次の行列の逆行列を求めよ.
 … [ 計算:見る|隠す]






(4) 次の行列の逆行列を求めよ.
… [ 計算:見る|隠す]



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