11 行列式2
行列式の値をその定義にさかのぼって計算することは一般には難しいので,実際には以下に述べる行列式の性質を用いて,変形してから計算することが多い.
定理5
行列 A = [ aij ] について次の性質が成り立つ. (1) 転置行列の行列式は,元の行列の行列式に等しい. | tA | = | A | (2) 列基本変形 [ 線形性 ] ア) ある列の各成分を c 倍すると行列式の値は c 倍になる. イ) ある列が2つの列ベクトルの和のとき,行列式の値は各列ベクトルで計算した行列式の和になる. [ 交代性 ] ウ) 2つの列を入れ替えると行列式の符号が変わる. ウ)により,2つの列が等しければ行列式の値は 0 となる. エ) ある列に他の列の定数倍を加えても行列式の値は変わらない. (3) 行基本変形 転置行列の行列式についての性質(1)から,(2)のア)イ)ウ)エ)の性質は行についても成り立つ. [ 解説と具体例 ] (1) n = 2 のとき が成り立つ. n ≧ 3 のときも成り立つことが知られている. (2) 前節の記述 → [ 見る / 隠す ]
(1) n重線形性 : 各列について線形
ア) ( i = 1, 2, …, n ) イ) ( i = 1, 2, …, n ) (2) 交代性 : 第i列ベクトルと第j列ベクトルを入れ替えると符号が変わる (3) 正規性 なお,(2)から次の(2)’が導かれる: (2)’ 第 i 列ベクトルと第 j 列ベクトルが等しいとき,すなわち, のとき, イ) ( i = 1, 2, …, n ) ウ) ウ)により,だから エ) ( i = 1, 2, …, n ) 例1 3列−2列
2列−1列
3列=2列だから
(3) 転置行列の行列式は元の行列の行列式と等しいから,転置行列について列基本変形を行ってから元に戻すと考えれば,行基本変形も成り立つ. 例2 3行−2行
2行−1行
3行=2行だから
○ 実際の変形は,以上の(1)(2)(3)を組み合わせて行う |
例3 3列−2列
2列−1列 3列=2列だから
例4 サリュ(サラス)の公式でそのまま計算すれば
これとは別に,3列+1列+2列
これらを比較すると,次の因数分解公式が得られる 例5 2列−1列, 3列−1列
因数分解
だから
3列−2列
だから
ここでだから
(原式)差積となる.(これをファンデルモンドの公式という.) |
○ 次に,定理5を用いた変形により,n次の行列式がn−1次の行列式で表わされることを示す.これにより,行列式の次数を順次下げて計算できるようになる.
変形できる
または
したがって
(原式)例 [ 証明 ] 1.第1列の成分がすべて 0ならば,定理5(2)エ)を用いて第2列を第1列に加えると,第1列と第2列が等しくなり,行列式の値は0となる. 第1列に0でない成分があるとき,定理5(3)を用いて,0でない成分を(1,1)成分にすることができる.これを新たにa11とおき,各行(i= 2 〜 n )に第1行の倍を加えると,各行の第1列成分を0にすることができる. 変形できる
同様にして,定理5(2)エ)により各列(j = 2 〜 n )に第1列の 倍を加えると,各列の第1行成分を0にすることができる. 変形できる
定理5(2)ア)により 変形できる
2. ここで,の各列を(j = 2 〜 n )とすると, がn−1重線形性をもつことは,次のようにして示される. ア) 各列を定数倍すると は定数倍になる. 定理5(2)ア) イ) ある列ベクトルが2つの列ベクトルの和であるとき, 定理5(2)イ)のより,行列式の値は各列ベクトルで計算した行列式の和になる. ウ) 交代性も示すことができる. 以上ア,イ,ウ)により, は,各列についてn−1重線形性をもつから,前節の記述より, |
例6 次の形の行列を各々上三角行列,下三角行列という.
上三角行列の行列式は,対角成分の積になる.
定理5 (2)アにより
だから
定理5(2)エ)により各列(j=2〜n)に
第1列の 倍を加えると,各列の第1行成分を0にすることができる
以下同様に行うと
下三角行列の行列式も同様にして,対角成分の積となる. 例7 (1) 3列を2でくくる
1列=3列だから
(2) (3,1)成分を消すために
3行+1行×(−2)とする (1,3)成分を消すために
3列+1列×(−3)とする (3) 1行と2行の入れ替え,符号は変わる
上三角行列の行列式は対角成分の積
(4) (1,1)成分を1にしたいので,1行を(−1)でくくる
(1,1)成分以外の1列目を消すために
2行+1行×(−3) 3行+1行×(−1) (1,1)成分以外の1行目を消すために
2列+1列 3列+1列×2 3次正方行列に下げる
サリュの公式が使いやすい
|
○ 行列の積の行列式については,次の関係が成り立つ.
定理6
※ 行列の積については,必ずしも交換可能とは限らないが,行列式については交換可能となる.
n次正方行列A, B について [ 証明 ] |
定理6から次の関係が導かれる.
(1) | Ak | = | A |k [ 証明 ] |
■確認テスト■ 次の行列式の値を求めよ. [半角数字=1バイト文字で答えよ]( 途中経過は一例 ) |