6 基本変形とランク1 ○ はじめに 中学校以来,次のような連立方程式を解くときに,「(1)式,(2)式を辺々加える」とか,「(1)式に(2)式を2倍して引く」などの変形を行ってきた.ここでは,このような変形方法を行列で考える.
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○ 次のような n元連立1次方程式について考える:
(1) 式の順序を入れ替えても,方程式の解の集合は変わらない.
(2) 式の両辺に定数 k ( k ≠ 0) をかけても,方程式の解の集合は変わらない.
(3) 1つの式の各辺に他の式の各辺の定数倍を加えても,方程式の解の集合は変わらない.
このように,
(1) 2つの式を入れ替える.
という操作は元に戻すことができる可逆的な操作なので,これらの操作を有限回行った結果は,同値な連立方程式となる.
(2) 1つの式を定数(≠ 0)倍する. (3) 1つの式に他の式の定数(≠ 0)倍を加える. ○ 連立方程式におけるこの操作を,対応する拡大係数行列でいえば次のようになる.
(1) 2つの行を入れ替える.
これらを行列の(行)基本変形という.
(2) 1つの行を定数(≠ 0)倍する. (3) 1つの行に他の行の定数(≠ 0)倍を加える. |
例3 |
○ 高等学校では,未知数の個数と方程式の個数が等しい場合,すなわち係数行列が正方行列の場合を主に取り扱い,係数行列を単位行列に変形すれば解を表わしたが,以下に述べる掃き出し法においては係数行列が正方行列以外の場合も取り扱う. すなわち,次の例に示されるような場合も含めて,拡大係数行列の変形方法を学ぶ.
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○ 掃き出し法とは,拡大係数行列に基本変形を繰り返し適用して,以下に述べる基本形にする方法をいう.
(0) 拡大係数行列の第1列の成分がすべて0であれば,連立方程式のすべての式においてx1の係数が0となり,x1は任意の数として,はじめから第1列を含まない方程式(拡大係数行列)を考えればよい. したがって,どれか1つの行の第1列成分ai1について,ai1≠0となる場合について考える. (ⅰ) このとき,第i行と第1行を(1)によって入れ替えることにより,a11≠0とすることができる. (ⅱ) (2)により第1行を 倍することにより,a11=1とすることができる. (ⅲ) 各々のi(i=2, … m) について,第1行を(2)により−ai1倍し,(3)により第i行に加えてai1=0とすることができる. (ai1−ai1)x1+(ai2−ai1)x2+…+(ain−ai1)xn=(bi−ai1)
すなわち0x1+(ai2−ai1 )x2+…+(ain−ai1)xn=(bi−ai1)
ここまでの変形で拡大係数行列は次の形になる.(変形後の成分は変化しているが,改めて同じ記号で表わすものとする.) (ⅳ) 拡大係数行列の第2列以降を考え,第k列ではじめてあるl(≧2)に対して成分alk≠0であるとする. (ⅰ)と同様にして行を入れ替えることにより2行k列成分を≠0とすることができ,(2)と同様にして2行k列成分を1にできる.さらに(3)と同様にして,第 k列の3行以降の成分を0にすることができる. この操作を続けることにより,拡大係数行列は次のような形になる. (ⅴ) (iv)により,拡大係数行列は階段状の成分をもったものとなる. 2行k列成分が1で1行k列成分a1kが0でないとき,1行目に2行目の−a1k倍を加える行基本変形により,1行目の成分を0にすることができる. ある列の2つ以上の成分が0でないときは,各々の行についてこの行基本変形を行うことにより,それぞれ0にすることができる. ○ 以上に述べた掃き出し法は,ベクトル空間Rmの基本ベクトル を,この順にAの左から順にできるだけ多く作るものとなっている.このようにして得られた行列Aの最終形をAの基本形と呼ぶ. ○ 掃き出し法によって基本形を求める変形は,次に述べる階段行列を求め,最終的に既約な階段行列を求めることであるといえる.
次の条件を満たす行列を階段行列という.
(2) 上の行の先頭の1は下の行の先頭の1よりも左にある. (3) すべての成分が0である行は,まとめて行列の下端に置く. 例 階段行列のうち,さらに次の条件(4)を満たすものを既約な階段行列という. (4) 先頭の1がある列では,先頭の1以外の成分は0となっている. 例 掃き出し法による基本形への変形例 |
○ ここまでは,連立1次方程式の(拡大)係数行列を扱ってきたが,以上に述べた掃き出し法は一般の行列にも適用できる. 一般の行列においても,第1列にai1≠0となる成分があるとは限らないが,この場合は零ベクトルとならない最初の列から掃き出し法を始めればよい. 一般の行列Aに対応する連立1次方程式においてAに零列ベクトルがあれば(仮に第q列とする),xqが任意の値となるだけである. ○ こうして得られた(一般の)行列Aの基本形に現われる異なる基本ベクトルの個数を行列Aの階数(rank)といい, rank(A)またはrankAで表わす. 行列 A を基本形に変形する途中経過は一意的には定まらないが,rank(A) は途中経過によらず定まることが知られている. 基本ベクトルに現われる成分1の個数は,行列の行数,列数を超えないから,次の定理が成り立つ.
定理1 m×n行列Aに対し,rank(A)≦mかつrank(A)≦nが成り立つ
例7 上の例5の係数行列を とおくと,その基本形はで,基本ベクトルはの2個であるから,rank(A)=2である. 例8 同様にして,例6の係数行列をとおくと,その基本形は で,異なる基本ベクトルはの3個であるから,rank(B)=3である. 例9 行列 Cの基本形が となるとき,異なる基本ベクトルは の3個であるから,,rank(B)=3である. |
■確認テスト■ |