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10 行列式1
 決定する determine という動詞の派生語 determinant は,日本語では行列式と訳され,n次正方行列が正則であるか否かを判定できる式である.行列式の数学的な定義はこみいったものであるが,広く用いられる便利な式である.
 以下において解説する行列式は,行列 A の n2 個の変数 aij のある n 次式で,その式の値が 0 であるか否かによって行列 A が正則であるか否かを判定することができる.

○ 行列式を用いて正則を判定する例 (解説は後に述べる)

 n = 2 のとき,2次正方行列 の行列式を, あるいは で表わし,
a11a12
a21a22
=a11a22−a12a21

と定義する.

 実際の数値で行列式の値を求めてみると,


となり,
は逆行列をもち,正則行列であるが,
は逆行列をもたず,正則行列でないといえる.

○ 一般のn次正方行列の行列式を求めるに当たって,まず,これと密接に関連する連立方程式の解の公式を作ることを考える.
行列を列ベクトルの束で表わしたものについて,次の条件を満たすような からへの写像を考える.
(1) n重線形性 : 各列について線形
 ア) ( i = 1, 2, …, n )
 イ) ( i = 1, 2, …, n )
(2) 交代性 : 第i列ベクトルと第j列ベクトルを入れ替えると符号が変わる
    
(3) 正規性
    

なお,(2)から次の(2)’が導かれる:
(2)’ 第 i 列ベクトルと第 j 列ベクトルが等しいとき,すなわち, のとき,

 はじめに,以上の条件(1)(2)を満たす写像が存在すれば,連立方程式の解の公式を作ることができることを示し,次にそのような写像の存在を示す.
 まず,連立方程式



と書ける.
 いまの第 i 列のところに,このを代入すると,


(1)により






(2)'により

だから,ならば
(i = 1 〜 n ) … (*)


 次に,このような条件を満たすの存在を示す.

n=2 のとき,とおくと,


(1)(2)を満たすがどのようなものか検討すると,




ここで(2)’により


だから


とおくと,これら(1)(2)の条件だけで(*)式の値は定まるが,特にc=1とすれば,(3)の正規性を満たす.
よりc=1


となる.

 このとき,連立方程式の解(*)は,




となる.

n≧3のときも同様に定まることが知られている.

◇ここまでの要約◇
(1) 行列式
 n=2のとき,

=
a11a12
a21a22
=a11a22−a12a21


 n=3のとき,「サリュの方法」と呼ばれる覚え方がある(sarrus[フランス人,人名]のカタカナ表記をサラスとすることもある):


=a11a22a33+a12a23a31+a13a32a21
−a31a22a13−a11a23a32−a21a12a33

 n ≧ 4 のとき,上のような簡単な覚え方はない.

(2) 連立方程式の解:「クラメルの公式」という.
 n=2 のとき,




 n=3のとき,

=

=
b1a22a33+a12a23b3+a13a32b2
b3a22a13b1a23a32b2a12a33
a11a22a33+a12a23a31+a13a32a21
−a31a22a13−a11a23a32−a21a12a33


=

以下同様に計算できる

=

以下同様に計算できる

例1
(1) 
(2) 
(3) 



(4) 





例2
(1) 連立方程式をクラメルの公式で解くと,


(2) 連立方程式 をクラメルの公式で解くと,




■確認テスト■ 
(それぞれ,半角数字=1バイト文字で答えよ)
1.  次の行列式の値を求めよ.
(1)  = 
(2)  = 
(3)  = 
(4)  = 
2. 次の空欄を埋めよ.
(1) 連立方程式 をクラメルの公式で解くと,
4
3
=

34
23

3
2
=

34
23


(2) 連立方程式 をクラメルの公式で解くと,
4
2
=

74
32

7
3
=

74
32

3. 次の連立方程式をクラメルの公式を用いて解け.
(1)    x1= ,x2= 

(2)   x1= ,x2= 

(3)    x1= x2= x3= 

(4)    x1= x2= x3= 
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