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4 行列の演算

○ 行列の和と差  2つの行列の和と差は,行列の型が同じ場合のみ定義され,各成分の和および差を成分とする行列として定義される.


例1


○ ベクトルのスカラー倍と同様に,行列 A のスカラー倍 kA は, A の各成分をk倍したものを成分とする行列として定義される.
例2

○ 行列の積  2つの行列 ABの積ABは,
[1]  Aの列数とBの行数が等しいときだけ定義され, l×m行列とm×n行列との積は,l×n行列となる.
[2]  Ai行ベクトルとBj列ベクトルの内積がABの(i, j)成分となる.
[具体例]  りんご,かき,みかんの単価を各々 150円,120円,80円とする.また,りんご,かき,みかんを各々3個,4個,5個買ったものとする.
単価を表わす行ベクトルを

で,個数を表わす列ベクトルを

で表わすと,合計価格は内積

となるが,この計算はの要素の個数が一致する場合だけ定義される.
…   …   …
 次のようにi行とj列の内積が(i, j)成分となる.






例3 次の積において(2, 3)成分は,21+32+13=11となる.他の成分も順次計算すると


※ 一般に,AB=Cのとき,Cの成分は cij=ai1b1j+ai2b2j+…+ aimbmjで表わされる.
  Σ記号を用いて書けば

例4 次の積は定義されない:3×4型・2×3型

※ 上の例3,4の違いから分かるように,行列の積についてはABが定義されても,BAも定義されるとは限らない点に注意.
 また,次の例のようにABBAとも定義されても型が異なり,ABBAとなる場合がある.AB=BAとなるとき,AB可換であるという.
2×3型・3×2型 → 2×2型

3×2型・2×3型 → 3×3型

○ ある行列Aと単位行列Eとの積が定義できるとき,その積はつねにAとなる.
   m×n型・n×n型:AE=A

   m×m型・m×n型:EA=A


○ 行列の演算の性質をまとめると,次のようになる.
( 演算が定義できる限り,結合法則,分配法則,和の交換法則はつねに成立するが,積の交換法則はつねには成立しないところが重要 )
和の交換法則
積は交換法則成立せず
A+B=B+A
AB≠BA
零元の性質
単位元の性質        
A0=0A=0A+0=0+A=A
AE
=EA=A
スカラー倍の性質   0A=0,1A=A,(ab)A=a(bA),(aA)B=a(AB)
和の結合法則
積の結合法則
(A+B)+C=A+(B+C)
(AB)C=A(BC)
分配法則 a(A+B)=aA+aB,(a+b)A= aA+bA
A(B+C)=AB+AC,(A+B)C= AC+BC
※ 和の結合法則 (A+B)+C=A+(B+C) から,A+B+C という式は,どちらの意味に理解されても等しく,A+B+C と書いてよい.k個の和は A+A+…+A=kA と書くことができる.

※ 同様にして,積の結合法則 (AB)C=A(BC) から,ABC という式は,どちらの意味に理解されても等しく,ABC と書いてよい.A が正方行列ならば,自分自身との積が定義でき,k個の積を AAA=Akと書くことができる.
○ 行列 Aの行と列を入れ替えて得られる行列を A転置行列transposed matrix)といい,tAと書く.
  tAの ( i, j) 成分はAの ( j, i) 成分である.
例5
ならば
○ 転置行列については,次の性質がある.
t(tA)=A, t(aA)=a(tA), t(A+B)=tA+tB, t(AB)=tBtA
最後の式は次のように示すことができる:
両辺の ( i, j) 成分が等しいことを示す.
行列 Aはp×q行列, Bはq×r列とする.
左辺の ( i, j) 成分は,ABの ( j, i) 成分だから,

一方,tBの ( i, k) 成分は bkitAの ( k, j) 成分は ajkとなるから,右辺の ( i, j) 成分は,


これらは等しい.
○ 正方行列では,行数と列数が等しいので,tA=Aとなるものが存在する.このような行列を対称行列(symmetric matrixfont>)という.これに対して,tA=−Aとなる正方行列を交代行列という.
例6
だからは対称行列
だからは交代行列
○ 任意の正方行列 Aについて, (A+tA)は対称行列となり, (AtA) は交代行列となる.
   A= (A+tA)+ (AtA)であるから,任意の正方行列は対称行列と交代行列の和として表わすことができる.

■確認テスト■  (半角数字で答えよ)
(1) 次の計算をせよ.





のとき
4
−1
12

のとき
3−1
3−1

(2) 行列
について,次のうちで演算が定義できるものを選べ.(チェックを付ける)
A+B , ABB , ACB , BC
tAB , AtB , tAtB , A+tB
(3) 次の等式が成り立つように,定数a, b, cの値を定めよ.

a=, b=, c=
(4) 行列が任意の2次正方行列と可換となるように,定数a, bの値を定めよ.
(考え方)
任意の 定数x, y, z, uについて,次の等式が成立すればよい.すなわち,x, y, z, uの恒等式となればよい.


a=, b=
(5) 次の関係を,言葉で表現しているものを下から選べ : tA=A → t(A2)=A2
対角行列の2乗は対角行列となる.   転置行列の2乗は転置行列となる.
対称行列の2乗は対称行列となる.   交代行列の2乗は交代行列となる.
転置行列の2乗は元の行列に等しい. 
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